津地方裁判所 昭和27年(ワ)116号 判決
原告 手島武
被告 山本円吉
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は原告と被告との共有に係る別紙目録<省略>記載の山林を各平等に分割あらんことを求む。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として別紙目録記載の山林(以下本件山林と略称する)は原、被告の共有でその持分は各二分の一即ち平等である。しかして原告は都合上本件山林を分割したくその旨被告に再三交渉したが被告は将来の値上りを考慮して分割の請求に応じないので原告は民法第二百五十六条に基きここに本件山林の分割を求めるため本訴請求に及んだと陳述し、尚原、被告間に右共有にかかる本件山林を手離す場合は双方協議し共同歩調を得難いときは双方はいずれも自己の持分だけを他に譲渡するも差支えないとの特約があつたと附陳し、被告の森林法第百八十六条に基く分割制限の主張に対し右森林法の規定は憲法第十一条第二十九条に違反し無効である。即ち森林法の主眼は同法第一条にある如く森林の保続培養と森林生産力の増進を図るにあつて之が目的達成のために森林基本計画、森林区施業計画、森林区実施計画を立て森林所有者に植栽の義務を負わしむると共に伐採を制限して濫伐を防止するにあることは明らかであり、同法第百八十六条の規定も亦右の趣旨に出でるものと解すべきであるが森林共有者に分割請求権を認めたとしても共有者は分割森林を濫伐するとは限らないし又伐採は同法の他の規定によつて制限されているのであるから何らの弊害もないばかりでなく、却つて右規定あるため共有森林の分割を請求し得ない結果各共有者は自己の意思に基く共有森林の合理的なる経営をなし得ないこととなり森林法の目的にも反する結果を来すのである。しかも同条但書において持分の価額が過半数に達する共有者による場合は分割の請求を認めていながら平等の持分を有する共有者には分割請求権を認めないとする何らの根拠なく極めて不合理といわなければならない。叙上の如く右規定は格別の理由がないのに共有者が当然に有する共有物の分割請求権を制限し憲法第二十九条、第十一条によつて保障せられた財産権を不当に制限するもので憲法違反といわなければならない。仮りに右規定が憲法違反でないとしても同規定は森林法の目的に照らし共有森林の現物分割のみを禁止したものと解するからいわゆる価額分割を求めると述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中本件山林は原被告両名の共有でその持分は平等であること、右持分の譲渡に付いて原告主張の如き特約のあつたことは認めるが(右特約には尚持分を譲渡する場合は親族又は双方孰れかに譲渡する定めがあつたものである)その余の事実は否認する。原告の本訴分割請求は森林法第百八十六条により許されない。即ち同条に依れば森林の共有者は各共有者の持分の価額に従いその過半数をもつてする場合の外はその共有にかかる森林の分割を請求することができないものであるところ本件山林は右森林法にいわゆる森林であつて原、被告双方の持分は平等であるから原告のみでは分割を請求し得ないこと明らかであり仮りに分割を請求し得るとするも原告は本訴提起前に民法第二百五十八条の所謂共有者間の協議を履践していない。仍つて原告の本訴請求は失当であると述べた。<立証省略>
三、理 由
本件山林は原、被告の共有でその持分は各二分の一即ち平等であることは当事者間に争いがない。
ところで原告は右共有者として本件山林の分割を求めるものなるところ森林の共有者は各共有者の持分の価額に従いその過半数を以つてする場合の外は森林の分割を請求し得ないものであること森林法第百八十六条の明定するところである。原告は右森林法第百八十六条の規定は憲法第十一条第二十九条に違反して無効であると主張するから案ずるに右第百八十六条は財産権の制限たるは免れないところであるが同条が設けられた趣旨は一般の共有物の如く共有森林についてもこれを自由に何時でも分割し得るものとすれば必然的に森林は細分化され小団地となり森林の公の立場よりする合理的な経営ができ難くなつて森林法の主眼とする森林の保続培養及びその生産力を増進して国土保全と国民経済の発展に資せんとする目的が阻害される虞れがあるから右目的を達成する為、分割を制限し森林の細分化を防ぐにありしかも同条は森林の共有持分の処分権を奪うものでないから森林の共有者はその持分の譲渡その他の処分はこれを自由になし得るばかりでなく同条による分割の禁止も絶対的のものでなく持分の過半数による請求に対しては分割を許容しているのであるから森林共有者が蒙る斯る程度の不利不便は森林法の窮極の目的とする公共の福祉より視て忍容すべきである。尤も同条は各共有者の持分の価額の過半数による場合は分割を認めていながら本件の如く持分平等なる場合にこれを認めないことになるが同条は森林の細分化を防止することを目的とするものではあるものの一面出来得る限り私人の財産権を尊重する意味から公共の福祉と私権の尊重との二者の調節を図つたものでその調節線を各共有者の持分の価額の過半数に置いたものと解すべく要するに同条は前示憲法の諸条項に違反するとはいい得ず原告の憲法違反の主張は理由がない。
次に原告は右第百八十六条の規定は森林法の目的に照らし単に共有森林の現物分割のみを禁止したものであるからいわゆる価額分割を求めると主張するが同条は共有者に共有物の分割請求権を認めた一般規定たる民法第二百五十六条の規定を森林に関しては排除しその分割を許さないとしたものであつて分割の方法の如何を問わず全般的に分割そのものを制限したものと解すべきであり、森林法の他の諸規定よりみても同条が現物分割のみを制限したものであることは窺い得られないところであるから原告の右主張も亦理由がない。
仍つて原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 西川力一 中瀬古信由 家村繁治)